ヘアサロンの世界観を表現するのは髪だけじゃない HML U/2A柏昌弘さんがコンセプトムービーをつくるワケ
都内屈指のデザインサロンblockで、ディレクターなどの要職を担っていた柏昌弘(かしわ まさひろ)さん。アパレルの広告撮影など腕を問われる現場でも結果を残してきた人物です。2020年9月には独立を果たし、渋谷でHML U/2A(ヒメル)を立ち上げました。独立1年目は「ブランドサロン」のイメージを創るチャレンジをされるとのこと。その取り組みの一つがムービーです。どんな狙いで、どんなムービーを制作しているのか教えていただきました。
SPECIAL CONTENTS
2021.08.12
「ジャンルレス」に個性が融合する渋谷の空気がサロンの原点
僕の地元は埼玉ですが、高校時代から渋谷を遊び場にしていました。美容専門学校も国際文化理容美容専門学校の渋谷校でしたし、卒業の職場も渋谷。だから、渋谷の進化をずっと見てきたんですよね。
渋谷っておもしろい街で、時代時代によってトレンドや独特なカルチャーがありつつも、「ジャンルレス」な空気をずっと残しているんです。昔から原宿系の人がいれば、ギャルもいるし、モードっぽい人もいる。ギャルはギャルでもモードギャルがいたりと、多様性があったんですよね。最近は「ボーダレス」だとか「ジェンダーレス」だとか、そういう言葉がよく聞かれるようになりましたけれど、渋谷にはもともと多様性があったと思います。
専門学校時代を振り返ってみても、原宿系がいればギャル系もいるし、お兄系もいるみたいな。しかも、みんな同じ場所にいるから仲良くなっちゃう。普段は交わらない「個性」が、渋谷という場所で交わるという具合に、いい意味での「違和感」もあったんですよね。渋谷の魅力である「ジャンルレス」は、僕の中でのキーワードでもあるんですよ。
ヘアサロンの経営では、サロンの方向性を打ち出して、そこに寄せていくのが王道のブランディングかもしれないですが、僕はどこかのジャンルに寄せるつもりはありません。スタッフのテイスト、個性をそのまま尖らせてほしい。渋谷のようないろんなジャンルの人が自然に集まってくるようなサロンにしようと思っています。
だからスタッフにも個性を磨くことを勧めていますね。個性は自分で見つけることもあるかもしれないけれど、本人は気づいていないパターンが多い。スタッフの個性を見つけることも僕の仕事だと思っています。
一過性のトレンドに流されず「らしさ」と「違和感」を打ち出す
ジャンルレスな渋谷のように、「どこかに寄せない」というのがブランディングの方向性ですが、みんなバラバラで好きにやればいいというわけではありません。一過性のトレンドに流されず、「自分らしさ(個性)」「違和感」を大事にしているサロンであることを、毎日意識しています。
日常的な会話でもそうだし、お客さまにも伝えていきたい。SNSの情報発信でもそれは同じです。サロンの世界観をみんなと共有することが大事だし、その積み重ねでブランドサロンになっていくのだと思います。
周りに流されることなく、サロンの独自性を際立たせたいからこそ、他のサロンのSNSを観察しています。参考にしているのは、美容系のアカウントよりも、ハイブランドのアカウントなどです。
わかりやすく、キャッチーな情報を大量に発信してフォロワーを獲得するというのが、美容業界のSNSマーケティングの大きな流れになっていると思います。だからこそ僕たちは、「情報を出しすぎない」ようにしていますね。
サロンにくる前から情報がたくさんあってイメージできるよりも、情報が少なくてイメージで補完できないくらいのほうが興味を惹かれると思うんです。行ってみないとわからない場所に行くときのほうがドキドキすると思いませんか。しばらくは情報をあえて小出しにしていこうかなと考えています。
コンセプトムービーで伝えたいのはサロンの世界観
新たに始めたコンセプトムービーの一番の狙いはサロンの世界観を伝えることです。サロンのイメージや空気感を伝えるのは、ヘアスタイルの写真だけじゃありません。ヘアスタイルだけで訴求していると、モデルさん勝負になってしまうこともある。同じヘアスタイルでも、有名なモデルさんのほうが目立ちますから。
だから、サロンの世界観を伝えるために、ヘアスタイルでアピールするのは遠回りになると思いました。単純に、Instagramをスクロールしているとき、ムービーのほうが目に留まりやすいという理由もありますけどね。
ムービーはアパレルブランドのブランディングを参考にしています。アパレルブランドはシーズンごとにイメージムービーをつくっていますよね。ムービーの内容は服の宣伝ではなく、ブランドの世界観を伝えることです。
だから、アイテムだけにフォーカスするんじゃなくて、モデルさんの全身やシチュエーションなどを撮っています。服が全部見えないこともあれば、モノクロだったりもする。商品紹介ではなく、ブランドイメージを伝えるために振り切っているからだと思います。
HML U/2Aのムービーの考え方も同じです。ヘアにフォーカスしたり、説明したりするのではなく、サロンのイメージを伝えることを意識しました。
これまでにつくったムービーは、すべてiPhoneをジンバル(スタビライザー)に固定して撮影しました。ジンバルは1万8000円かそのくらいだから、高価な機材をつかっているわけではりません。
撮ったムービーをInstagram用に編集しています。編集ソフトは無料のものなので凝った編集はできないですが、無料の範囲の編集でもつくれないことはありません。音に合わせて画面を切り替えたり、細かいつなぎ合わせをしています。サクサクと映像が切り替わるほうが目をひくし、スタイリッシュな雰囲気が伝わるかなと思い、そこを意識していますね。
カメラマンさん曰く、一番センスを問われるのがムービーとのこと。確かに編集次第でクオリティが変わります。どこまでいじるか、どこまでシンプルにするか、足し算引き算のバランスが難しいし、そこでセンスが出るんだろうなと。いろいろと試してみたいと思います。
感度のいいお客さまがムービーをきっかけに来店
ムービーの反響は上々です。特にアパレル・ファッション系のお客さまが紹介できてくださることが増えました。ムービーを見ればイメージが湧くので「1回行ってみようかな」となりやすいみたいです。ムービーがサロンの名刺代わりになってくれていると思います。
Instagramの発信では写真もムービーも、いわゆる「引き算」の考え方でつくっており、これがサロンの独自性につながっている反面、悩みもあります。カラーやパーマ、トリートメントの名称をあんまり出さないから、お客さまに「自分がやりたいメニューがあるかわからない」と思われてしまうことです。
例えば、うちでもストレートパーマはできるけれど、それが表に出ていないから常連のお客さまが別のところでパーマをかけてきたりすることがあるんですよね。カラーについても同じようなことがあります。ウチでもできるんだけどなぁと思うんですけれど…。
シンプルでミニマムな感じの印象がお客さまに伝わっているのは嬉しいけれど、幅広い技術ができることもきちんと伝えていかないとダメだし、スタッフの対応力を養っていくことが大事かなと。とまあ課題もありますけれど、焦らず、流されず、サロンのブランドを築いていきたいですね。
柏 昌弘Masahiro Kashiwa
埼玉県出身。都内有名店を経て2020年9月より独立。サロンワークを中心に、国内から海外まで雑誌、広告、アパレル、アーティストのヘアメイクもこなすマルチなサロンワーカー。普遍的なものや一瞬のトレンド・流行りが数多くある中で、『その人らしさ(個性)』を一番に考える。2019年上海コレクションにもヘアスタイリストとして参加。活躍の場を開拓中。
Director桑名 真理子(くわな まりこ)
メイク技術者の目線を武器に、美容WEBマガジンの創刊、12年間で延べ1000件を担当。人の魅力にフォーカスする企画が得意。美容ライフが豊かになる、ワクワクする景色をつくります。
Writer外山 武史(とやま たけし)
SUKETTO LLC代表。インタビューをした美容師さんの人数は延べ1000人以上。いつも美容師さんの味方でありたいと願うライターです!