ヘアカラーのパイオニアみやちのりよしが語るベストマッチカラーリングvol.02【美容師スタイリスト編】
2016年前後から長く続くヘアカラーブーム。トレンドカラーは日々変化するけれど、 本当にお客さまが叶えたいベストカラーってどうしたら見つけられるの? 今回は、『SHACHU』の代表であり、デザインカラーの先駆者でもあるみやちのりよしさんに、カラーリングのベストマッチング法について教えてもらいました。前編の【お客さま編】
につづき、後編は【美容師スタイリスト編】。お客さまに満足いただけるヘアカラーをするにはどんなことを大切にしたらいいのか? その秘訣に加えて、カラーに向いている美容師さんはどんなマインドを持っている人なのか、お聞きしました。
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2021.07.30
サロンの鏡の前だけでなく、お客さまの生活圏内での支持まで意識を広げる
―前半は、美容師さんにとってのカラーについてお伺いしたいのですが、まず、カラーをするお客さまへのカウンセリングでみやちさんが大切にされていることはなんですか?
今は、お客さまもパーソナルカラーを知っている時代だし、美容師も、イエベだからこう、ブルベだからこうっていうふうに考えがちかもしれないけど、それは一度取り払ってお客さまに寄り添うようにしています。
お客さまが自分で「似合わない」っていう色って、実際には似合わないというよりは「好きじゃない」ということもあるので、「絶対こうした方がいいよ」とか上から言うのではなく、その人がどうなりたいのかを把握して、半歩先のアイデアを提案する感じです。
あんまりたくさんのことを言うと混乱させてしまうことも。そこは気をつけながら「じゃあこういうのはどうですか?」とあくまでわかりやすく提案をしていって、それを積み重ねていくと、「おまかせで」というふうになっていきます。
ただ、「おまかせ」と言ってもらえるほどの信頼関係を築いたからといって、毎回新しい提案をせずにマンネリ化することはないようにしています。やっぱり、お客さまの何年間かの歴史の中で彩りがあるようにしたいです。
―カウンセリングのときに、よくお客さまに聞く質問はありますか?
どんなライフスタイルなのかはよく聞きます。どういう仕事をしているのか? 職場はどのエリアなのか? なぜかというと、お客さまはサロンの鏡の前だけで満足というわけではなく、翌日以降に「髪の毛の色きれいだね」って言われるカラーを求めて来店してくれているはずだから、その人の暮らしの中で支持されるカラーということを意識しています。
盲点になりやすいのが、毎日のアイロンによるダメージ
―そこまで考えてカラーしてもらえると、お客さまも本当に嬉しいですよね。実際、カラーをする前に髪の状態を見るときに、どんなところをチェックしておくと成功に繋がりやすいですか?
たくさんありますが、盲点になりがちなのが、お客さまが毎日ヘアアイロンやコテを使っていることによるダメージ。今って、セルフでアイロンやコテを使うのが当たり前の時代で、特にくせ毛で悩んでいる人は顔周りにアイロンを当てている人が多いのですが、そこだけダメージが強いのでそれを見落としてしまうと顔周りだけ真っ暗になってしまうことがあります。
パッと見ではわからないので、カウンセリングの時に聞いてしまうのも手。キューティクルが弱っていて色が入りすぎて沈んでしまうので、薬剤の選定を変えたりダメージを加味した全体の選定をするようにしています。
もう一つは、日本人の髪質はカラーをしたときに赤みに振れるタイプと黄色みに振れるタイプに分けられるんですね。赤みが強いタイプだと色落ちしたオレンジになりがちで、黄色みが強いと金髪っぽく色落ちしていく。
そこでコンプレックスと思っていることと逆のことをすると喜んでもらえることが多いので、赤みが強いタイプの場合はカーキなどマットな色を入れて赤みを抑えて、黄色みが強い場合は紫を入れて黄色くならないような選定をしています。
―髪質を見極めるのが大切ということなんですね。他に、カラーを成功させるためにみやちさんが意識していることはありますか?
僕の場合は、「似合わせ」と「持続性」ですね。SNSなどに投稿するのにいい写真を撮りたい、というのはわかりますが、お客さま目線で考えるのならば持続性ってとても重要な要素です。「2週間経って気になってきた」ではなく「2週間経ってこれも可愛い」と思えるカラーにしたい。とくに、すぐに落ちてしまう色は退色してその色になるくらいを目指した方がいいのかなって思います。
情報のインプット量で勝負できるカラーは、経験の少ない若手美容師でも成功しやすい
―今までたくさんのスタッフを育ててきたみやちさんから見て、「カラーに向いている美容師さん」って、どんなパーソナリティーを持った人だと思いますか?
探究心と好奇心を兼ね備えている人は向いていると思います。薬剤に関しても、いろいろなものを研究したり新しいものに興味を持ったりできる人。うちのスタッフでも、空いた時間に毛束を染めたりしてラボみたいなことをやっている人もいて、よく後片付けされていなくて怒られていますが(笑)。それでも飽きずにやっているから、本当にカラーが好きなんだろうなと思います。
―子どもがクレヨンや絵の具を持ったときのような好奇心みたいですね。
そうそう! 子どものような好奇心。
カラーって、カットよりも答えがあるというか、レシピや方程式があるから教えやすいし、きれいな塗り方ができたらあとは自分の情報量で勝負できるんですよ。
引き出しさえ持っていれば、キャリアがそこまで長くない若年の美容師さんでも成功しやすい。好奇心があってインプットがあれば次の日から役立てることができるから、どんどんうまくなっていきますよ。
―5月からカラー専門店『CS made by SHACHU』を展開したみやちさん。展望をお聞かせいただけますか?
はい。カラー専門店は全国にできる予定です。CSを通してSHACHUでやってきたカラーのエッセンスをフランチャイズに落とし込むというのは今までなかったことだと思います。
その中でカラーに特化しようと決めたのは、もっと美容師さんに憧れをもってもらえるようなきれいなステージを用意したかったからというのが大きな理由です。それこそ、厳しい環境の中で、いろいろなことがあって折り合いをつけてしまった――「諦めてしまった」といったら言い方が悪いかもしれないけど、そういう美容師さんがまたプライドをもって働ける場があればいいのに、と考えました。
ただ、そこでカットやパーマなど幅広い技術をすべて、ということになると自信のないままなんとなく流れ作業的にこなしていくことにもなりがちで、それだと悲しい。そこで、カラーだけに絞れば、さっき話したようにちょっとしたヒントやアドバイスなどのインプットがあればうまくなっていくし、それが自分の自信にもなっていくんじゃないかと考えました。
―美容師さんの打ち出しも細分化していて、「カットはこの人」「カラーはこの人」と求めるものによって使い分けているお客さまも増えているように思います。
そうなんです。渋谷で美容師をやっていると特にそう感じます。だから、日本全国で「カラーだけ」で戦う尖った個性のお店も受け入れられると信じています。
みやち のりよしNoriyoshi Miyachi
岐阜県生まれ。2014年4月、渋谷にSHACHUを設立。グラデーション・ハイライト・デザインカラーなどを用いたハイトーンカラーが圧倒的な支持を集めている。2018年3月、女性モード社より『SHACHU 秘伝のヘアレシピ』を出版。サロンワークに加え、国内外のセミナー、ヘアショー、ヘアメイクと幅広く活躍中。2021年からは、新会社CS Beauty & Productsを設立、「Agu.グループ」と事業提携し、全国展開に向けヘアカラー専門店「CS made by SHACHU」を渋谷にオープン。
Director桑名 真理子(くわな まりこ)
メイク技術者の目線を武器に、美容WEBマガジンの創刊、12年間で延べ1000件を担当。人の魅力にフォーカスする企画が得意。美容ライフが豊かになる、ワクワクする景色をつくります。
Photographer菊池 麻美(きくち あさみ)
多摩美術大学グラフィックデザイン科卒、2003年・2004年 CANON写真新世紀佳作。レゲエと海外旅行をこよなく愛するフリーランスフォトグラファー・シネマトグラファー。
Writer須川 奈津江(すがわ なつえ)
フリーランスの編集・ライター@東京東側。お仕事は美容師さんメディアでの執筆、教育、健康、レシピ本などの実用書・ライト文芸の編集などなど。